マグネットアクチュエータコイルを巻く

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何とかコイルが巻けるようになったので私の作り方を紹介
 最初はコイルぐらい簡単に巻けると考えていました。ところが作ってみると何度やっても使えそうなコイルを巻くことができませんでした。 A-1 の飛行機に積んだのが実用になった初めてのコイルです。なんとそれまでに 50 個以上のコイルを巻いたでしょうか。タイトル画像はその中のほんの一部です。

 初めて巻いたのは 0.12mm のエナメル線でした。この太さでは手で巻いても線が途中で切れるようなこともなく巻きやすかったのですが、型から外すのに苦労しました。

 工作機械がないのでコイルを巻くいための型を作ることが出来ません。そこで身近にあるサーボホーンを使ってこのような治具を作りました。巻いたコイルを固めるのは瞬間接着剤です。瞬間接着剤が型にくっついてしまっては困るので、型全体をポパール(水溶性の離型剤)に浸してドライヤで乾燥してからコイルを巻き始めます。ポパールは FRP でカーボンプロペラを作ったときに東急ハンズで調達しました。

 ある程度巻いたら瞬間接着剤で固め、次を巻くといった作業を繰り返して巻き上げます。巻き終わったら流水で離型剤のポパールを洗い流しながらネジを外し、押さえのサーボホーンを剥がします。ここまではいつも順調にことが運びます。ところが 400 回以上も巻いたコイルの芯は離型剤の前処理程度では抜けてくれません。仕方なく無理やり外すことになります。その結果せっかく巻いたコイルが型崩れてしまいます。こんなことの繰り返しでした。

 それでも実験に使えそうなコイルがいくつか巻けました。当初コイルの巻き線抵抗の値は 100Ωを目標にしていました。ところが 0.12mm のエナメル線では 50Ωも巻くとかなり大きくなってしまいます。これでは実験に使えても飛行機に搭載するには重過ぎると考えました。 0.12mm のエナメル線を使ったのはたまたま手元にあったからです。少々太すぎる感じがしたのでその後 0.1mm のポリウレタン線を調達してきました。しかし 0.1mm の太さでも軽量なインドアプレーンのマグネットアクチュエータコイルに使うには太すぎることがわかり、この線でコイルを巻くことは止めました。すでに 0.07-0.08mm の太さがいいのではないかと仲間内で議論していたからです。

 その後これも手元にあった 0.05mm のエナメル線で試しにコイルを巻いてみました。急に細い線を扱ったことと、手巻きなのでちょっとの力加減ですぐにプツッと切れてしまいます。途中まで巻いたコイルの抵抗値を測っては何回ぐらい巻けば所定の抵抗値になるかおよその見当をつけました。この細さでは仮に巻けたとしてもリード線の処理に困ってしまいます。

 巻き線を調達に出かける時間がなかなかありません。ふと 0.05mm の線をダブルで巻いてみたらどうだろう?と考えました。計算から断面積は 0.07mm とほぼ同じになります。早速ダブル巻きでコイルを作ってみました。この細い線を扱うには型から容易に外せることが大切です。そこでコイルを固めるのに瞬間接着剤ではなく、アクリルラッカを使う方法に変更してみました。

 サーボホーンを二つ使う方法は今も変りません。ホーンの円盤部分を、巻くコイルの外径に合わせて削りました。離型材料として水道工事に使うシールテープ(テフロンテープ)を使ってみたのです。 DIY 等で簡単に入手できると思いますます。程よく伸びるのでとてもよく型になじみます。このテープを引っぱりながら 3 周ほど巻いたあとポパールの液に浸してドライヤで乾かします。

 コイルを 50 回巻いたら小筆に含ませた透明アクリルラッカをコイルに染み込ませ、ドライヤで十分に乾燥します。乾燥したらまた 50 回巻いて固めるという作業を繰り返します。この乾燥が十分でないと、コイルの表面は固まっていても内部が乾燥しない状態になり、型から外すときに崩れてしまいます。

 十分乾燥したらねじを外して流水の中でコイルに接していない部分のシールテープをサーボホーンから剥がします。このとき剥がしたシールテープは取り去らずに残したままにします。次に押し当ててある側のホーンを取り去ります。その後コイル側面に付着しているシールテープを流水のなかで注意深く剥がします、芯の部分まで剥がしたら、そのシールテープ引っ張りながら芯とコイルの隙間に挟まっているシールテープを少しずつ引き出します。するとテープは薄く伸びながら出てきます。ここまでくれば芯とコイルに隙間ができるので型から簡単に外すことができます。後はコイルの周りに付着したシールテープを流水の中で離型剤を溶かしながら注意深く剥がせばアクチュエータコイルの出来上がりです。

 出来上がったコイルは間違ってもドライヤで乾燥してはいけません。コイル内部に含まれている空気が膨張してコイルが膨らんでしまいます。あとは自然乾燥します。

 とここまできましたが、実は A-1 に搭載しているコイルは 0.05mm の単巻きです。 200Ω巻くつもりでしたが、注意しながら巻いたにもかかわらず、あと少しというところでプツッと切れてしまいました。そのため 800t 170Ωのコイルとなってしまいました。この程度なら実用上は全く問題ありません。巻き線の抵抗値はあくまでも目安で、実際には巻き数とコイルに流す電流の積でコイルが作り出す磁力の強さが決まります。

 コイルの巻き初めと巻き終わりの処理も大事です。私がやっている方法はコイルの巻き初めと巻き終わりを 2 本撚りにしています。長さ 30cm くらい。撚った線の両端を半田上げします。こうすることによってリード線の断面積が 2 倍になり、強度アップと低抵抗化が図れます。巻き始めは撚った部分を 2 周ほど芯に巻き込んでおきます。巻き終わり部分も撚った線の両端に半田上げをしてから 2 周ほど巻き、アクリルラッカで固めます。最後に巻き始めの線と巻き終わりの線を撚ってコイルに 1/4 周ほど沿わせてアクリルラッカか瞬間接着剤で固定します。

 苦労してコイルを固めていますが、産業用では自己融着電線というものがあります。コイルを巻きながら熱風で固めてしまうタイプと、巻きながら溶剤でコイル表面を溶かして固めるタイプがあります。後者のサンプルを少々いただいてはあるのですが、現在製作中の飛行機に搭載するには少し線が太いことから巻き線のテストをしていません。残念ながら少量しか使わないアマチュアには特別なルートがない限りこれらの材料を簡単に手に入れるすべがありません。

 最近はモータで巻く方法も実験しはじめました。たまたま壊れた CD ラジカセがあったので、 CD を回転させるスピンドルモーターを外して使っています。コイルのインピーダンスが高いので、電源を供給中に手で止めても問題ありません。 50 回ほど巻いたら止めてアクリルラッカで固めるといった作業は今のところ欠かせないのであまり効率よくありませんが、少しは早く巻けるようになってきました。モータで巻くようになってからは正確な巻き数が判らなくなりました。カウンタをつけるといいんでしょうけどね。

 何とか実用になりそうなコイルは今のところこれぐらいです。右の二つはごく最近巻いたもので右から 140Ω(4mm マグネット用)と 180Ω(5mm マグネット用)です。

 マグネットアクチュエータのトルクはモータを使ったサーボと比較にならないほど小さなものです。しかし構造が単純で大変軽くできるのと比較的簡単に作れる点で小型の飛行機に使うには素晴らしく魅力のあるサーボです。しかも PIC でドライバが作れるのもアマチュアにとって好都合です。

 市販されているコイルの巻き線抵抗は 50Ωから 200Ωほどあります。この巻き線抵抗はコイルのドライブ方法と、ドライブ電圧によって変わってきます。私が使用している PIC の出力ポートから直にコイルをドライブする場合には出力ポートの許容電流を考慮しなければなりません。

 PIC12C509A の場合ポートの入出力許容電流は 25mA となっています。 3.7V のリチウムポリマー電池を電源とした場合、出力電圧のドロップ分がないものと計算して、コイルの抵抗値は 148Ω以上にする必要があります。実際にはポートの出力電圧は流す電流とともに低下してしまいます。そのような理由からできるだけコイルの巻き線抵抗値は高いほうがいいのです。単に巻き線抵抗を高くするだけなら細い線を数多く巻けばいいのですが、細いほど巻くのが難しくなり、流せる電流値も低下します。

 コイルの発生する磁界の強さは、コイルの巻き数とコイルに流れる電流の積で決まります。 PIC の入出力電流はポート当たり 15mA 程度に抑えたいところです。ポート 2 つを利用してコイルに印加する電圧を反転させるので、その電圧降下は 1.1-2.2V にも達します。このあたりを考慮すると、リチウム電池 1 セルでコイルを PIC の 1 ポートで直接ドライブする場合には 200Ω位のコイル抵抗値が必要になります。私は入出力ポートをそれぞれ 2 つパラに使って 1 つのコイルをドライブしています。その場合、実験から 100Ω以上あればポート出力電圧の低下がかなり抑えられることがわかりました。

 サーボホーンを利用してコイルを巻く場合、組み合わせるマグネットが中で回転できる軸の太さが必要になります。隙間がありすぎても効率が悪いと思われます。 A-1 飛行機では 0.05mm のエナメル線を使って作った内径 6.5mm 、外径 9mm 、厚さ 3mm 、170Ωのコイルに外径 5mm 、厚さ 3mm のマグネットを組み合わせています。サーボホーンの軸部分が 6mm のものを使ってシールテープの厚さを加えた内径になっています。コイルとマグネットで 0.9g 、ドライバ 0.2g を含むサーボ完成で 1.1g と超軽量です。このサーボで 30g の飛行機を自在にコントロールすることが出来ます。

 最近はコイルを固めるのにドープを薄めて使ってみたりしています。とりあえず何とかコイルを巻くことが出来るようになったので紹介してみましたが、こんな方法で巻くと簡単だよといった情報があれば是非ご紹介ください。
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2002/09/29 inserted by FC2 system